2017.08.03-04
2017年札幌国際会議「ボーダー・ヒストリー」

2017年8月3日から4日にかけて、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターで、境界をめぐる研究の諸相に関する国際会議が開催された。基調講演のStefan Berger氏は、具体例として博物館の展示を挙げながら、境界を動的にとらえ、社会的、経済的、法的、歴史的、あるいはジェンダーの視点から考察する枠組みを提示した。そこには、境界を、単に紛争の根源としてのみならず、ひとつの新しい政治や社会の可能性としてもみる視点があったように思えた。また、もうひとりの基調講演者である岩下明裕氏は、自身が関わっている日本の国境隣接の各国の地方自治体の交流の様子を紹介した。ロシア、台湾、韓国などとの国境をめぐる政治的対立を、一般市民レベルの交流の蓄積によって徐々に解決の方向へと向かうような試みは、新鮮であり、挑戦的であった。どちらも質問が途切れることはなかったことが示すように、研究のテーマ、地域、専門にかかわらず、「境界」というテーマは多くの議論を引き起こすキーワードであることが明らかになった。
個々の報告の内容も多岐に渡った。古代ローマ帝国、中世ドイツから、北方四島、近代中国、現代ポーランド、鴨緑江、アムール川、フィンランドなど、地域も多彩であり、また、ジェンダー、食、資本主義、叙事詩、暴力、記憶など、テーマもさまざまであったし、コメンテーターもあえて専門ではない研究者を設定していたため、それがかえって議論をユニークにしていたと思う。全体の印象として感じたのは、境界の研究をするための構えである。
 それは、第一に、学問の境界を取り払わなければならないこと。第二に、フィールドワークと理論構築の往復のなかで進めなければならないこと。第三に、中心の視線の政治性を相対化すること。以上の三点がうまくからむと、今後の境界をめぐる研究はさらに展開していくように思われた。

藤原辰史、京都大学人文科学研究所)

2017.08.03-04
2017年札幌国際会議「ボーダー・ヒストリー」

8月の3日から4日にかけて北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターで開催された国際会議「ボーダーヒストリー」は、そのタイトルが示す通り、西洋近代的な「外交」によって決定された「国境」が出現する以前の、複数の勢力の影響下にあるような、あるいはどの勢力の影響下にもないような「辺境」地域に焦点をあてたものであり、様々な時代・地域における「辺境」の事例が提示された会議となった。筆者は19世紀末から20世紀初頭におけるイギリスの植民地である香港の歴史を専門としているが、中国人を統治するうえでイギリス人がどのように制度を適応していくのか、イギリスの制度の中で中国人がどのように生活していったのかを考えることが重要になる香港史において、「ボーダーヒストリー」の概念は大きなヒントを与えてくれるように感じた。
様々な地域・時代と書いたが、スラブ・ヨーロッパ研究者を中心とした本会議において実に4本もの報告が中国の清朝とその周辺地域を扱っていた点は注目に値する。東洋史・中国史研究の見地からすると、中国とその周辺地域との対外関係の枠組みについては、フェアバンクが「中華世界秩序(China’s World Order)」という枠組みを提唱して以来今日に至るまで中国史において最も議論されてきた問題の一つと言っても過言ではない。特に清朝は、満州族によって(すなわち漢民族以外によって)建てられた点、アヘン戦争以降徐々に近代的外交体制に組み込まれていく点などから重要な王朝である。制度的枠組みの解明に偏りがちであった中国の対外関係史だが、「ボーダーヒストリー」の概念に触れることで近代的外交体制以前(あるいはその過度期)の周辺地域との関係性をより重層的に捉えることが可能となるであろう。
一方でこの観点からすると、本会議に東洋史・中国史研究者がほとんど参加していなかったことには一抹の寂しさを感じた。昨今より広範な地域を視野に入れた分析が重要視されている歴史学においては、今回のような概念をテーマとした会議の存在は今後さらに影響力を持つことになる。それぞれの研究者がより広くアンテナを張り巡らせることが必要になってくるだろう。

小堀慎悟、京都大学大学院文学研究科東洋史学専修博士課程)

2017.06.03-04
第8回東アジア・スラヴ=ユーラシア国際学会

第8回東アジア・スラヴ=ユーラシア国際学会(ソウル・CHUNG-ANG UNIVERSITY)にて、パネル“‘Eurasianized’ Conflicts of Memories and Histories: Reflection from East and Central European Experiences”を組みました。当日の構成は次のようになりました。

  • 趣旨説明
  • 橋本伸也氏(関西学院大学、日本)
  • 研究報告1
  • 立石洋子氏(成蹊大学、日本)
    “Disputes on History Textbooks in Russia”
  • 研究報告2
  • 福元健之氏(関西学院大学、日本)
    “An Introduction on Relationship between Poland and Ukraine in Memory Politics: Controversy over the Film “Wołyń” of Wojciech Smarzowski”
  • 研究報告3
  • 重松尚氏(東京大学大学院、日本)
    “A Hero or a Collaborator: History and Memory of Kazys Škirpa (1895-1979)”
  • コメント
  • 小田中直樹氏(東北大学、日本)
    具滋正氏(大田大学校、韓国)

歴史/記憶をめぐる紛争は決してアジアだけの問題ではなく、東・中欧を中心にヨーロッパにおいても深刻化しています。さらに言えば、アジアとヨーロッパはロシアおよび中国の間でみられる歴史政策の接合によってともに新しい展開に直面しており、過去が政治的資源としていかに利用されているのかという問題は、冷戦以後の世界における新秩序の形成局面を理解するうえで欠くことのできない検討課題となっています。このような前提に立ち、本パネル(座長・趣旨説明:橋本伸也氏)では、東・中欧の諸事例からユーラシア規模で展開される歴史/記憶紛争を捉えなおすことを目指しました。 立石報告は、歴史教科書を素材に現代ロシアにおける多様な歴史の解釈の存在を明らかにしました。福元報告は、映画をめぐる言説分析からポーランド・ウクライナ間の記憶政治上の関係を論じ、ナショナルな言説を超える対話が研究者間でも困難である状況を整理しました。重松報告では、現代リトアニアにおいて、カジス・シュキルパを独立闘争のための英雄とみなす動きが強まっていることが見えてきました。一連の考察からは、過去の解釈は多様性をもちつつも、ナショナルな解釈の持つ力が増してきていることがうかがえます。小田中直樹氏や具滋正氏、パネル出席者との質疑応答を通じて、「近代性modernity」の問題や左派から右派への「転向」問題が、今後ユーラシア規模で歴史/記憶紛争を考えるべき論点として浮かび上がってきました。

2017.04.06
ファリーバー・アーデルハーフ・ワークショップ

2017年4月6日、パリ政治学院(Sciences Po)のファリーバー・アーデルハーフ(Fariba Adelkhah)先生をお迎えして、 “The Thousand and One Borders of Iran: Travel and Identity” 題した講演会を行いました。

この講演会では、国境を越えたヒトやモノの交流によって、政府によるコントロールとは異なった次元で変貌していくイラン人のナショナル・アイデンティティについて、シリアの聖地巡礼、アフガニスタン人難民の流入、アラブ首長国連邦のドバイとのビジネスとこれによって形成された同地におけるイラン人共同体、イラン・イスラーム革命により亡命したイラン人が形成したロサンゼルスのイラン人共同体など、アーデルハーフ氏のフィールドワーク調査に基づく事例から描写されました。

中東でアラビア語、テュルク系諸語と並ぶ主要言語であるペルシア語を共通語とする文化圏は、イスラーム以前からの古い文明を誇る地域である一方、その中核的な地域を占める現在のイラン・イスラーム共和国も多様な宗教・民族によって構成されています。それにもかかわらず国民としてのイラン人アイデンティティが確固として存在していることは、宗教対立や民族対立が頻発する他の中東諸国にはないイランの特徴であり、幅広い議論を促すはずのものでした。ただ、中東地域を専門としない参加者の多くにとってはこの地域特性がやや理解しづらく、イラン人アイデンティティの構成要素などについて十分な議論の時間が取れなかったことが残念でした。

2017.03.26-27
第1回全体研究会

2017年3月26日(日)、27日(月)の両日関西学院大学大阪梅田キャンパスで、第1回研究会を開催しました。研究会の内容は以下のとおりです。

  • 合評会
  • リン・ハント、長谷川貴彦編『グローバル時代の歴史学』(岩波書店、2016年)
    評者:佐藤公美(甲南大学)、戸邉秀明(東京経済大学)
  • 研究報告1
  • 「民俗学とは何か—--マイノリティ研究との関わりから」島村恭則(関西学院大学)
  • 研究報告2
  • 「過去が紛争化させられる時代」橋本伸也(関西学院大学)
  • 研究報告3
  • 'The Historiographycal myths of Spanish Transition to Democracy and its current revision'
    Daniel Gomez-Castro(JSPS Post Doctoral Fellow in Japan, Kwansei Gakuin University) 、
    討論 菊池信彦(国立国会図書館)
2017.02.07
キャロル・グラック・セミナー

2017年2月7日、コロンビア大学のキャロル・グラック先生をお迎えして小さなセミナーを開催しました。先生が率いておられるPolitics of Memory in Global Contextプロジェクトの活動、橋本伸也『記憶の政治----ヨーロッパの歴史認識紛争』(岩波書店、2016年)、アンドレアス・ルスターホルツ先生(関西学院大学)による世界の記憶研究を主動するアライダ・アスマンの新著『忘却の形態』(Aleida Assmann, Formen des Vergessens, Wallstein, 2016)について話題提供などを素材に、グラック先生のお話を伺いながら、現代世界における歴史・記憶政治の構図について様々な角度から議論しました。